暖簾の奥の立ち話

新井「イトヒロさんにとって、おでんはどんな食べ物ですか?」

イトヒロ「僕は宮城の田舎育ちだから、おでんといえば味噌田楽おでんでしたね。それもコンニャクのみ。いやあ寂しいなぁ。汁気たっぷりのおでんを知ったのはちび太(おそ松くんに登場するキャラ)が持っていたあの串刺しおでんからだね。あれには憧れたなぁ。東京に来てからは、学生時代に飲み屋でよく食べたおでんがいわゆる正式なおでんだと思った」

「みんながイメージするおでんについては、紀文が全国区にしたんだろうね。でも、この本を見るとわかるように、各地にも独特なおでんがあるんですよ。味噌だれをたっぷりかけた室蘭の味噌おでん、串刺しおでんが鍋にぎっしり詰まった静岡おでん、鶏がらを使った大阪や高知のおでんだとか……」

「たしかにこの本を絵を描いていたら、いろんなおでんを食べたくなっちゃったんだよね。僕は、大阪のタコの甘露煮、名古屋の味噌おでん、静岡の黒はんぺん、沖縄の豚足のスープが気になったね」

「とことん亭のおでんを作るほかに、教えてもらった店にも足を運んでもらいたいな。僕が選ぶベスト3としては、仙台のおでん三吉、名古屋の味軒、沖縄の悦ちゃんかな」

「各地のおでん以外に、アイデアおでんのページもおもしろかったね。これはどうやって思いついたの?」

「キムチおでんは、韓国におでんがあるって言ったときにみんなに聞かれたのがきっかけかな。すごく簡単でおいしかった。野菜の煮物風おでんは、台東区千束にある『大多福』の主人と話したときに思いつきました。大多福のおでんは野菜たっぷりでヘルシーだと思ったんです。大多福のだし汁は『一平』と『お多幸』の中間だけど、いろんな味のだしでもおいしいですよ」

「ところで、冷やしおでんは本当に作ったの?」

「実はあれ、寒いときに作ったんですよ。揚げかまぼこはちょっと硬めだったけど、だし汁はおいしかったし、キュウリや豆腐はひんやりして合ってましたよ。冷やしラーメンが流行したように、冷しおでんもブームにならないかな? これでおでん屋も夏の営業は心配いらないといいけど?」

「僕もやってみたんだけど、トマトのおでんは秀逸だったね。トマトはアミノ酸が多いから、西洋料理のベースに使われるしね。でも西洋風のおでんじゃなくて、ちゃんと和風のおでんになっていたのは驚いたよ」

「アイデアおでんでいちばん成功したのは、やっぱりトマトかな。ブイヨンを使うのは雑誌でも紹介されているけど、煮干しだしがポイントなんですよ。鰹節でもけっこうイケます」

「アイデアおでんもそうだけど、今回は教えてもらったおでんをそのまま紹介するわけでなく、とことん亭のオリジナルレシピとして再現したわけだよね。レシピの完成度としては、ずばりどれがお勧め?」

「手軽でおいしいということなら、保温調理で作る一平風のおでんがお勧めです。だし汁が濁って悩んでいる人はぜひこの方法を試してもらいたいですね。仙台の煮干しだしのおでんもちょっと違った風味でおいしいですよ。焼き干しが手に入れば、それを使ってみるといいでしょう。名古屋の味噌煮込みおでんや、高知の日曜市のコクのあるおでんも捨てがたいなぁ」

「うーん、すぐにでも作ってみたくなった。でも、自分で作るのもいいけど、新井さんが作った『とことん亭の味』も食べてみたいね。これはもう、新井さんが屋台を開くしかないんじゃない? カブで屋台を引いて全国行脚っていうのはどうかな?」

「それは半分本気で考えてるんですよ。カブでおでん屋台を引いたら話題になるだろうなぁ」

2001年師走 とことん亭にて

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