おでん宣言

 おでんと聞いて、あなたはまず何を思い浮かべますか? だし汁を含んだ大根のみずみずしさ、魚のすり身の向こうにあるゴボウ巻きの食感、玉子のほくほく感、牛スジの甘みなど、人それぞれに好みが分かれると思います。
 そのうち、「おでんには○○が入っていないとダメ」と力説する人が現れて、“おでん談義”が始まるでしょう。そうすると、家庭の味の差やそれぞれが生まれ育った地域の背景が見えてきて、非常におもしろくなります。
 そう、おでんには、人を熱くさせる何かがあるのです。ラーメンやうどんやそば、あるいは日本酒やビールなど、それぞれにこだわりを持つ人は多くても、おでんに違いがあることさえ知られていません。
 そういえば、おでんは家庭で食べられる物であって、ラーメンなどのように外食することは少ないのではないでしょうか。そのうえ、手間がかからない料理と思われている感があります。にもかかわらず、日常に溶け込み、無意識のうちにその存在を記憶の底に刻んでいるのが「おでん」なのです。
 僕は、全国でどんなおでんが食べられているのか知りたくなり、原付きバイクで日本縦断の旅に出て、106日がかりで232か所の土地を訪ね、409か所のスーパーや市場を調べ、103回もおでんを味わいました。おでんを求める旅は、ついに韓国や台湾まで及んでしまったほどです。
 出かける前は、関東と関西の違いや、名古屋で味噌だれをかけることぐらいしか知りませんでしたが、旅をするうちに次から次へと見知らぬおでんとの出会いがあり、まったく飽きることがありませんでした。
 その成果は、前著『とことんおでん紀行』(凱風社刊)にまとめたので、興味のあるかたはご覧ください。この旅を一言で表現すると、田楽からおでんにつながる歴史の流れの縦糸に、日本各地の特徴である横糸を紡ぐ作業でした。実際に織りあがった本を見ていただければ、各地にさまざまなおでんがあり、それぞれ地域に根付いていることがよくわかるでしょう。

●おでんとは何か?
 日本料理は、焼き物・煮物・酢の物という風に「〜物」と分類されます。専門書でおでんを調べてみると、煮物に入っている場合と鍋物に入っている場合があります。ただ、そのどちらも、どことなく違和感がありませんか?
 煮物にしては汁気が多いし、鍋物にしては材料を煮ながら食べる独特の雰囲気がない。おでんはたしかに鍋に入って食卓に上るかもしれませんが、味がしみ込んでからみんなの前に出されるはずです。
 おでんのルーツが田楽だということはよく聞きます。けれども、東北で「おでん」を注文すると田楽が出てきたり、玉子やテンプラ(さつま揚げ)やコンニャクを串刺しにして味噌だれをかけたおでんが北海道にあったりすることは、ほとんど知られていません。
 各地でさまざまなおでんを味わううちに、「おでん物」と呼べる料理のジャンルがあるのではないかと僕には思えてきたのです。
 なかでも、普通に作ったおでんに味噌だれを付けたりかけたりする地域が多かったのも意外でした。地域によって、しょうが味噌だったり、田楽味噌だったり、八丁味噌だったり、からし味噌だったりします。
 おでんと聞くと熱燗を思い浮かべる人は多いようですが、酒のつまみ以外にも、ご飯のおかずにするおでん、子どものおやつに向くおでん、家族や友人たちと食卓を囲みながら食べるおでんと、いろいろ楽しめるはずです。
 また、北海道では「夏は味噌おでん、冬は汁気たっぷりのおでん」と明確に区別しています。おでんは冬だけに食べる物ではないのです。一時期、“冷やしラーメン”が話題になりましたが、“冷やしおでん”のような夏に食べるおでんがあっても不思議ではありません。
 昆布や鰹節のだし汁、醤油や味噌や塩の味付け、魚のすり身や豆腐を元にしたさまざまな具、そして季節の野菜。日本人が慣れ親しんだ味覚の集大成といってもいいおでんを、もっと見直そうではありませんか。

●おでんの約束[10か条]
第1条◎おでんは庶民の味方です
 やっぱり、好みの種を選べるのがおでんの魅力。スーパーのパック売りが普通ですが、店によってはバラ売りされていることもあります。近所におでん種屋があれば、1個50円から100円と手頃な値段で買えるでしょう。

第2条◎おでんは素材を生かします
 大根は煮崩れないように面取りしてから下ゆでしたり、さつま揚げ類は熱湯をかけて油抜きをしたり、それぞれの素材に応じた調理がポイントです。手間を惜しまず、昆布や鰹節の風味を損なわないように味付けしましょう。

第3条◎おでんは健康食品です
 揚げかまぼこは卵と同じぐらいのタンパク質やカルシウムが含まれている低カロリー食品。野菜や魚介類が中心のおでんは、実は体に優しいのです。普段作っているおでんに青菜類を加えれば、栄養のバランスも完璧です。

第4条◎おでんは気軽に食べられます
 市販のおでん種を買ってきて、だしを張った鍋で煮込めばできるおでんは、気軽に作れる料理の代表格です。コンビニでも年中売られるようになったので、学校帰りのおやつや深夜のスナックとしても親しまれています。

第5条◎おでんは味の変化が楽しめます
 料理の素材は、温まるときに味が染み出て、冷めるときに染み込みます。翌日のほうがおいしく感じるのはそのためです。また、からしを付けるだけではなく、味噌だれなどのつけだれを一工夫するのもいいでしょう。

第6条◎おでんは郷土料理です
 田楽からおでんに発展する過程で、各地でさまざまなタイプのおでんが生まれました。だしや調味料もそれぞれの土地で親しまれている物が利用されています。おでんは、日本の伝統食品であり、郷土料理なのです。

第7条◎おでんはだれでも親しめます
 おでんが嫌いという人は少ないのではないでしょうか。これは、和食の基本であるだしや調味料が使われているからです。特に、昆布と鰹節を合わせただしは、グルタミン酸とイノシン酸の相乗効果でうまみが倍増します。

第8条◎おでんは変幻自在です
 おでんに使われる材料は日本人が慣れ親しんだ味ばかりですから、さまざまな組み合わせが可能です。自分の舌で味わいながら基礎調味料を変えてもいいし、好きな素材をおでん種に加えてみる楽しさもあります。

第9条◎おでんは人の心を豊かにします
 最近は家族で食卓を囲むことが少なくなったようですが、みんなで楽しめるおでんは、一家団らんの象徴といえます。気の合った友人や恋人どうしで楽しむのもいいですね。おでんを食べれば、自然に心と体が暖まります。

第10条◎おでんは「おふくろの味」です
 地域や家庭の味が凝縮されているおでんは、まさに「おふくろの味」。化学調味料のだしに頼らなくても、ちょっとの手間でおいしいだしが引けます。懐かしさがこみあげてくるような、我が家の味を作りましょう。


  この本は、各地で親しまれている独特のおでんを作れるようにした“レシピ集”です。とはいうものの、ただ作り方が載っている本ではありません。それぞれのおでんがどんな背景で生まれ、どのような場面で食べられているのかがわかるようにしました。そしてそこから、作り方を教えてもらった人のおでんに対する情熱が見えてくるようにまとめたつもりです。
 なかには、市販のだしの素や化学調味料を使う例もありましたが、それらを使うのはやめて、体に優しいレシピとして再現してみました。また、遊び心でアイデアおでんもいくつか収録したので、ぜひお試しください。
 いろいろなタイプのおでんを作ることで、日本人が忘れかけている調理の基本や味付けのコツなどを知ってもらえるとうれしく思います。あなたも、オリジナルのおでん料理を作ってみませんか?

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