保温調理のススメ
とことん亭のおでん
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 おでんといっても千差万別。一般に思い浮かぶおでんは、だし汁が透明でさっぱりとした薄味の物でしょう。上品なおでんを作るには、だし汁を沸騰させないことが大切。グツグツ沸騰させてしまうとだし汁が濁るし、練り物の味が抜けてしまうのです。
 おでん種に対してだし汁をたっぷり使って、トロ火で煮るといいようですが、どうしてもおでん種を鍋にぎっしり入れてしまいがち。これを解決するには、できるだけ大きな鍋を用意して、おでん種がだし汁のなかで漂うぐらいにすること。また、一度に作ろうとしないで、味付けしたおでん種を皿に取り分けておいて、食べるときにそれを足して温めること。さらに、だし汁を多めに用意して、汁が減ったらどんどん継ぎ足すこと。
 でも、「保温調理」を活用すれば、そんなに気を遣わないですみます。保温調理とは、読んで字のごとく、保温した状態で調理すること。最近は、保温力が高ければ高いほどいいと勘違いされやすいので、「適温調理」と呼ばれているようです。
 この保温調理を科学的に研究しているのが、早稲田大学理工学部の小林寛教授。専門は電子工学のようですが、温泉卵好きが高じて試行錯誤しているうちに、65度の温度で調理した卵が栄養的にも味覚的にも優れていることがわかったとか。そして、野菜や肉などいろいろな食材の調理実験をしているうちに、料理の3原則に気づいたといいます。
 まず、食材の香りは蒸気といっしょに逃げていくので、長時間沸騰させないこと。次に、食べ物に適した温度(肉や魚なら80度ぐらい)と時間で調理すること。最後に、料理の味は冷めていく過程でしみ込み、温まる過程でしみ出すこと。煮物を作った翌日のほうがおいしくなるのはこの3つめの原則が関係しているわけです。冷めるときは食材の水の分子が外に出て味の分子が入り込み、温まるときにはその逆の現象が起こるのです。
「この保温調理の歴史は古くて、1867年にパリで開かれた第2回万国博覧会に『火なし竈』という木の箱が出品されたのが最初なんです。煮立ったばかりの鍋を火から下ろして、羊毛や毛皮を張った箱に入れておくだけでおいしい料理ができる物でした」
 何も知らないで保温調理を始めた小林教授は、特許を取ろうと思って調べた4〜5年後にこの事実を知ったといいます。さらにドイツでは、火なし竈を改良した「枯れ草箱」を作って、長年にわたって研究した人も見つかりました。
「温泉卵が簡単に作れる『コロンブスの卵』という商品を開発したあと、おいしいおでんを作ろうと思って発泡スチロールの箱に鍋ごと入れる方法を考えました。でも、ずっと使っているうちに箱が臭くなってしまうので、それならばと、今度は『はかせ鍋』を作ったんです」
 はかせ鍋というのは、保温調理用に開発された鍋のこと。鍋の回りにスカートと呼ばれる輪が付いていて、加熱効率がよいうえ、火から下ろしたときに空気の層で保温する仕組みになっています。はかせ鍋魔法瓶式の保温鍋もありますが、それとは違って適度に冷めていくので、味が染みやすい。それがなんと、おでんを作るために考案されたというから驚かされます。
「おでんというのは、夕方から煮ても味が染みなくて、困った料理のひとつだったんです。それなら、朝におでんを作って保温して、夕方に食べたらどうだろうと。弱火で沸騰直前まで加熱して、5〜6時間置いておけば、おいしいおでんができます。味にうるさい友人たちも納得してくれましたよ」
 なんだかずいぶん遠回りしたようですが、保温調理はまさに、おいしいおでんを作るために科学的に考えられた方法だったのです。

■はかせ鍋の問い合わせ先
(株)キッチンサイエンス
 TEL(03)3369-3914
 東京都新宿区高田馬場4-31-10-101

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